はじめに

物性・統計物理学の分野において近年「フラストレーション」という概念が注目を集めている。これは、様々な最適化条件が互いに競合し、系がそれらを同時に満たすことが出来ないような状況を指す。このようなフラストレート系では、自明な最適化条件が存在しないために、系は一般に不安定となりやすく、大きな揺らぎの効果が発現したり、時には非フラストレート系では見られない新しいタイプの熱力学的状態や相が実現される。もとより、フラストレーションは自然界では広く見られる極めて一般的な現象である。他方、様々な新規化合物も含めた物質開発や測定技術の進歩、また計算機シミュレーションの進展や理論的新概念の登場に伴い、近年フラストレート系研究の新たな機運が国際的にも急速に高まりつつある。フラストレート系固有の強く特異な揺らぎの効果を母体とした新規物性や、互いに競合する諸自由度の絡みから生み出されるであろう交差物性を狙うというアプローチである。伝統的なフラストレート系研究の場は長らく磁性分野であったが、近年は磁性分野のみにとどまらず、フラストレーション概念は、金属・強相関系・誘電体等のより広範な分野へと急速な展開を見せつつある。