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平成19年度の領域の研究成果 
領域代表 阪大理 川村光


 本特定領域では、磁性体、金属、超伝導体、誘電体等の広汎な物質を対象に、フラストレーションが生み出す新物性の探求を目指している。以下では、領域初年度に当たる平成19年度中に公表された当領域の研究成果の主なものについて述べる。


 伝統的には、フラストレーション研究のコアとなってきたのは磁性分野であり、本特定領域においても磁性分野は重要な位置を占める。フラストレート磁性において近年大きな興味を集めているトピックの1つに「量子スピン液体」がある。フラストレーションと量子効果のためスピンが極低温まで秩序化できず、対称性の破れを伴わない新しい量子状態を形成するのではないかと期待され、理論・実験両面から活発な研究が展開されている。岡本、香取(キ班代表者)、高木(キ班分担者)らは、一般に磁性秩序が安定化すると考えられている3次元でもフラストレーションが十分強い場合にはスピン液体状態が実現することを、「ハイパーカゴメ格子」構造を形成する S=1/2 量子反強磁性体 Na4Ir3O8において発見した [Y. Okamoto et al, Phys. Rev. Letters, 99, 137207 (2007) ]。そのような量子スピン液体として、これまでにS=1/2 3角格子有機反強磁性体 κ-(ET)2Cu2(CN)2 が知られていたが、今回、前川(ア班代表者)、小山田(ア班分担者)、加藤(理研)らは新たなS=1/2 3角格子有機反強磁性体 EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 を見出した [T. Itou et al, Phys. Rev. B77, 104413 (2008)]。正3角格子に近い結晶構造を持つ物質で、交換相互作用の100分の1以下の温度までスピンギャップの兆候は観測されずギャップレスの量子スピン液体状態となっている。これら有機フラストレート量子磁性体の標準モデルとして、異方的3角格子上のハバードモデルがあるが、是恒、求(キ班分担者)、古崎(理研)はこのモデルの基底状態を数値的に調べ、常磁性金属相と反強磁性絶縁相の間に実験的に見出されている量子スピン液体状態に関連すると期待される新たな状態を見出した [T. Koretsune et al, J. Phys. Soc. Jpn. 76, 074719 (2007)]。
 フラストレート磁性体は低温で何らかの秩序を形成する場合も多いが、そこで実現する秩序はしばしばフラストレーションがない場合とは異なった新奇なものとなる。川村(領域代表、イ班代表者)らは、3角格子ハイゼンベルグ反強磁性体が様々なタイプの新奇なボルテックス励起を有することを明らかにし、中辻(エ班分担者)らによって最近見出された3角格子ハイゼンベルグ反強磁性体 NiGa2S4 の新奇な低温スピン状態はZ2ボルテックス凝縮に伴うものではないかと提案した [H. Kawamura et al, J. Phys. Soc. Jpn. 76, 073704 (2007)]。www.frustration.jp_H19_results_fig1.jpg, SIZE:207x177(17.4KB)
 フラストレート磁性体は、そのスピン自由度だけではフラストレーションを解消できず、物質内の他の自由度、例えば格子・軌道・電荷といった自由度を巻き込み、これら他自由度とのカップリングを通してフラストレーションを解消することがある。特に強誘電性とのカップリングは、「マルチフェロイックス」として、近年大きな注目が集まっている。有馬(オ班代表者)らは、マルチフェロイック物質 TbMnO3 について、その電気分極が磁場の回転により反転できることを示した [N. Abe et al, Phys. Rev. Letters 99, 227206 (2007)]。また、有馬、廣田(カ班代表者)、松浦(カ班分担者)、十倉(評価者)らは、TbMnO3を対象に螺旋スピン構造に伴うスピンカイラリティが電気分極の向きと対応していることを、偏極中性子測定により示した [Y. Yamasaki et al, Phys. Rev. Letters 98, 147204 (2007)]。
 リラクサーはフラストレーションが本質的な役割を果たしていると期待される誘電体である。広い温度範囲で巨大な誘電率を示す実用上も重要な物質であり、本特定領域の重要なターゲットの1つとなっている。大和田(カ班分担者)、廣田(カ班代表者)らは、最近実用化された Spring-8 などの超高分解能X線非弾性散乱を用い、リラクサー物質Pb(In1/2Nb1/2)O3 (PIN) のフォノン計測をBサイトランダムネスへの依存性に着目しつつ行った。その結果、リラクサー現象が、反強誘電と強誘電の拮抗の下、Bサイトのランダムネスの影響によって発現していることを明らかにした [K.Ohwada et al, Phys. Rev. B77, 094136 (2008)]。
 伝導性を有するフラストレート磁性体の輸送特性も本特定のターゲットの1つであるが、花咲(エ班分担者)、十倉(評価者)らは、パイロクロア型酸化物 Nd2Mo2O7, Sm2Mo2O7 においてフラストレーションによって誘起されたスピンカイラリティに起源を持つと思われる特異なネルンスト効果(熱伝効果の横応答)を観測した [N. Hanasaki et al, Phys. Rev. Letters, 100, 106601 (2008)]。
 フラストレート系の新物性を探求する上で、新物質合成はその成否を握る重要なファクターである。陰山(ウ班代表者)らは、新しい手法を使って画期的な配位状態(平面4配位)をもつ鉄酸化物 SrFeO2 を合成することに成功した [Y.Tsujimoto et al, Nature 450, 1062 (2007); 朝日、読売、毎日、日経新聞等]。その構造安定性に関する解析も行い、平面4配位の鉄の構造が意外に安定であることを示した [C. Tassel et al, J. Am. Chem. Soc. 130, 3764 (2008)]。野口(カ班分担者)らは、次世代メモリー材料として期待される、鉛を用いないビスマス系強誘電体材料について、書き込み・読み出しに対する耐久性を高くする仕組みを解明した。これは、新規メモリー材料開発における指針を与えるものと期待される [日経産業新聞、日刊工業新聞等]。www.frustration.jp_H19_results_fig2.jpg, SIZE:257x224(7.7KB)
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